源氏物語を彩る多くの女性たちの中に、藤の花に例えられる人がいます。
明石姫君(あかしのひめぎみ)と呼ばれる人です。
源氏物語の主役はご存じ光源氏、400人以上が登場するこの大巨編の文字どおり太陽たる存在ですが、
その光源氏の、血を分けた娘は明石姫君ただ一人。
当時、不動産などは娘が継ぐものでしたので、光源氏が築いた巨万の富の揺るぎなき筆頭相続者です。
この姫の幸運はそれだけに非ず。
父からは美貌・権勢・財力を受け継いで、育ての母は紫上という超理想的な貴婦人、申し分ないレディ教育をしてもらいます。
(平安の姫君ってヒマではなかったんですよ!多くの使用人を束ねるために女性版・帝王学みたいなものを学ばなきゃでしたし、縫物や染色、お香づくりといった手作業の家事も多々ありましたし、加えて文学・音楽などの教養を身につけサロンの主宰者たらねばならなかったのです。これらのたしなみを明石姫君は、紫上にばっちり仕込んでもらった訳ですね…なんてラッキー♪)
成人後は、当時の女性いちばんの出世コースをたどりました。天皇の後宮に入ってトップになり、「天皇の妻」の座を悠然とゲット。子宝にも恵まれて次の帝、次の次の帝も、たぶん息子たちが占めるでしょうね…というめでたさです。
夫婦仲もよく、子どもたちも上出来で、源氏物語中ダントツの幸せな女性でしょう。
そんな明石姫君、唯一の悩みは三男(匂宮)のやんちゃ。ちょーっと女遊びが過ぎるんですね、この宮様は。「陛下もご心配なさっていますよ。軽々しいお振舞は、ね…」と息子に朝晩言い聞かす姿には、いつの時代・どこの家庭も変わらない育児の苦労がにじみます。
「木高き木より咲きかかりて、風になびきたる匂いは、かくぞあるかし」
「よく咲きこぼれたる藤の花の、夏にかかりて、傍らに並ぶ花なき朝ぼらけの心地」
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